腹部、腰部下痢
気持ち悪い、水のような下痢、熱も出てきた
胃が気持ち悪くなって、次いで下痢が半日から数日つづく状態は急性胃腸炎が考えられます。しばしば発熱やだるさを伴います。急性胃腸炎の診療にあたってのポイントは、原因が細菌性であるかウイルス性であるかです。ちょうど鼻やのどの症状が細菌かウイルスのどちらが原因かによって治療方針が異なるのと同じですね。ウイルス性胃腸炎と考えられる場合には、風邪と同じように症状に対する治療、対症療法になります。
急性胃腸炎になったらまずご飯を食べないこと
対症療法は熱に対して胃にやさしい解熱剤、ウイルス感染や炎症で乱れてしまった腸内細菌を回復させるための整腸剤、胃腸のけいれんを止める薬、そして嘔気をやわらげ胃の運動回復を助ける薬が処方されます。症状の初期には下痢止めはできるだけ使用せず、悪玉菌の排泄を促します。でも急性胃腸炎の治療で一番大事なのは胃腸の安静、すなわち絶食です。脱水症に使われる経口保水液をすこしずつ飲んでもらい、水分と電解質の補給を行います。1日か2日、きちんとした食事ができないと消耗すると思われるかもしれませんが、食べても吐いてしまうか下痢になって出ていってしまうのですから我慢しましょう。
なかには有名なノロウイルス感染のように39度程度の高熱と激しい嘔吐、下痢、悪寒、関節痛が生じることがあります。冬季に流行し、ほかの患者さんの便や嘔吐物に含まれるノロウイルスを直接吸い込むか、手を介して感染する、あるいは人の排せつ物が河川に排出され、これを摂取した二枚貝(とくにカキ)を食べることにより感染します。潜伏期間は24-48時間ですので、生ガキを食べた後、2日ほどしてから発症することが多いです。また家族の一人がノロにかかり、看病しているうちに家族間で次々と感染してゆく「ノロわれた一家」になってしまうこともしばしばです。
ノロの検査は行っていません
ノロウイルスかどうか外来で検査を希望されることもありますが、現時点でウイルス検査が保険適応になっているのは介護施設や保育園だけです。一般の方は保険がききません。治療は対症療法であり、ウイルスの種類にかかわらず同じ対処法になるということもあり、当院ではノロウイルス検査は行っていません。急性胃腸炎を起こすそのほかのウイルスにはエコー、アデノ、エンテロ、コクサッキーがありますが、いずれもウイルスを確認する検査は行っていません。
細菌性胃腸炎
急性胃腸炎の症状があった場合、問診で食事の内容を確認します。内容によっては細菌性胃腸炎、いわゆる食中毒の可能性を考えます。日本でよくみられる食中毒の原因には以下のものがあります。
カンピロバクター
最も多い細菌性胃腸炎の原因で、焼き鳥や鳥の刺身を食べてから3-5日後に、下痢、腹痛、発熱、嘔吐で発症します。熱は39度を超えることもあり、腹部症状よりも先に熱だけが上がってくることもあります。また右下腹部痛がよくみられ虫垂炎(いわゆる盲腸)と間違えられることもあります。
サルモネラ
サルモネラ菌の食中毒は卵や卵の加工食品が原因となります。潜伏期間は12-72時間程度で、突然の下痢、嘔吐、腹痛、発熱がみられます。とくに嘔吐の症状が強く出ます。症状が起こる直前に食べたものにはあやしいものはなかったけれども、よく聞くと2日前に古くなったたまごサンドを食べていた、なんてこともあります。
腸管出血性大腸菌
O157が有名ですね。そのほかにもいくつかの種類があり、ベロ毒素と呼ばれる毒素を産生する大腸菌による感染症です。汚染された水で洗った生野菜などが原因となり、潜伏期間は1日から1週間と幅があります。発熱はほとんどなく、血便が多くみられるのが特徴です。軽症から重症まで様々ですが、感染力が強いことが問題で保健所への届け出が義務付けられています。
ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌が産生する毒素によって引き起こされ、食後3時間で激しい嘔吐、腹痛、下痢を伴う急性胃腸炎症状が出現します。こちらは直前の食べ物が原因になるわけです。原因食品はおにぎりが多く、調理した人の手や指先の傷にいる黄色ブドウ球菌が食品に感染するのです。他に折詰弁当や仕出し弁当、和菓子、シュークリームなどが代表的な原因食物です。高い熱はあまりでず、1~2日で快方に向かいます。
これらは細菌感染が原因なので抗生物質を使いたくなります。でもO157やブドウ球菌のように毒素が原因の場合には、むしろ抗生物質を使用してはいけないのです。抗生物質を使用するとかえって菌から毒素が放出されてしまい、症状が悪化するからです。ほかの細菌性胃腸炎の場合も、重症な場合、高齢者、糖尿病患者さんなどの場合に限って抗生物質投与を考慮します。また調理担当者や医療従事者の場合も抗生物質投与を考慮します。
慢性の下痢は過敏性腸症候群(IBS)
急性胃腸炎の下痢症状とは違い、数週間にわたって下痢が続く、あるいはよくなってはまた悪化することを繰り返す場合があります。ストレスでおなかが痛くなって下痢をします。会社員では週明けに症状が悪化することもあります。これは過敏性腸症候群(IBS)の可能性があります。過敏性腸症候群とは、下痢だけでなく便秘が主症状の場合もあり、腹痛や腹部不快感をともなう便通異常が慢性的にくり返される病気です。大腸の動きの異常と内臓知覚過敏、そして心理的要因によって起こる病気で、血液や便の検査、大腸内視鏡検査などで異常が見られないことが特徴です。ちょうど胃の機能性ディスペプシアの大腸版のような病気です。診断基準は以下の通りです。
反復する腹痛または腹部不快感が、最近の3か月のうち少なくとも1か月に3日以上存在し、しかもそれらの症状が以下の3つのうち2つ以上を伴うこと
3か月以上たっていなくても症状、経過から典型的と考えられる場合には、過敏性腸症候群の早期として治療を開始します。過敏性腸症候群は下痢型、便秘型、混合型に分類されますが、下痢型は軟便または水様便が25%以上あり、硬便または兎糞状便が25%以下の場合と定義されています。もちろん25%というのは大体の目安ですね。腸の運動機能や水分吸収機能を調整し、知覚過敏状態を改善する内服薬や整腸剤が用いられます。漢方が有効な場合もあります。香辛料や飲酒を避けるなどの日常的な食事療法も重要です。
IBS以外の疾患を見逃さない
下痢だけではなく、発熱、関節痛、血便、さらに6か月以内に3㎏以上の体重減少がある場合には、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性の腸の病気の可能性があります。さらに大腸の病気だけでなく甲状腺機能や血液中の炎症反応を確認する必要があります。また50歳以上での発症や血縁者が大腸癌であった場合には、大腸癌の可能性も考慮に入れます。疑いがあれば大腸内視鏡検査を行える医療機関に積極的に紹介しています。
薬の副作用による下痢
抗生物質を内服後、数時間から1日で下痢が出現し、内服が終了してからも数日間下痢が続くことがあります。抗生物質投与によって腸内細菌のバランスが変化し、普段は増殖が抑えられていた悪玉細菌が増加することで下痢が生じるのです。なかでもクロストリジウム菌という細菌が増殖した場合には偽膜性大腸炎とよばれており、軽度の腹痛と下痢だけの場合もあれば、発熱、脱水、腸閉塞など危険な状態になることもあります。
また胃潰瘍や逆流性食道炎の治療に使用されるプロトンポンプ阻害薬という系統の胃薬でも慢性的な下痢をおこすことがあります。この薬を内服中に、慢性下痢に加えて体重減少、夜間便などの症状がある場合には膠原線維性大腸炎という病気の可能性を考えます。通常の大腸内視鏡検査では異常が見られず、大腸粘膜の組織を生検して顕微鏡でみてはじめて炎症の存在が明らかになります。プロトンポンプ阻害薬内服開始から数週間で症状が出現することが多いです。内服を中止すると1週間程度で症状が改善します。
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